「こんなところにいたくない」介護職の私がこの言葉に思うこと

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「こういう所なんて言われているか知ってる?格子なき牢獄って言われているの」
ある利用者さんから言われた一言。
残念ながら施設の介護職として働いていると、利用者さんから現場の不満を聞かされることがある。
「施設に入るのは嫌だ」や「なんでこんな所にいなきゃいけないんだ」と言われてしまうことも。
確かに頻繁に好きなものを食べれないし、外にも出れないような場所にいて、「それはそうだろうな」と思う自分がいる。
同時に人生において最期に過ごす場所でそう思わせてしまっていることが少し切ない。
介護の仕事を続けて8年以上。
今でもなんと声をかければ正解なのだろうと、悶々とすることはあるが、今回、インタビューで新たな視点が見つかった。
お話を伺ったのは北海道の社会福祉協議会で働く徳橋さん(通称とくちゃん)。
厚生労働省の「介護のしごと魅力発信等事業」の1つとして開校したオンラインスクール「KAIGO LEADERS SCHOOL」で知り合い、今回のインタビューが実現した。
そのため、この記事は課題制作でおこなったものだが、本気で話を聴くことができ大変満足している。
とくちゃんが介護の仕事で得た気づきから、地域包括ケアの大切さや老いても安心して生活できるヒントを探っていきたい。

営業から介護へ──とくちゃんが出会った”損得なしのありがとう”

とくちゃんは元々営業職だったが、パートナーの妊娠をきっかけに引っ越しをするため退職し、2019年から介護老人保健施設へ入職。
その後、現場職を経て相談員になった。

相談員とは、利用者さんと介護施設をつなぐ橋渡し役。
事業所の窓口となり、利用者さんやその家族の要望を聞き、実現に向けて現場と連携していく。
具体的な仕事は、見学対応や入退所の契約手続き、行政・関係機関との連絡調整を行う仕事だ。

とくちゃんは介護についてはじめは、体に負担のかかる仕事という認識があったらしく、ネガティブな印象を抱えていたという。
しかしそれでも介護の仕事を続けてこれたのは、営業職時代とは違う”損得なしのありがとう”があったからだ。

「営業の仕事では損得があっての『ありがとう』を言われることが多かったんですけど、福祉業界の『ありがとう』って、損得がないんですよね。」

なかでも印象的だったのが、相談員をしていたときに出会った利用者さん家族とのエピソードだ。

「頚椎損傷で入所された40代のAさんの支援をした際にご家族から『あのときはありがとうございました』と直接お礼のお電話をもらったときはうれしかったですね。」

その方は年齢の問題や障害の状態が重く、なかなか入所できる施設がみつからなかった。
困っていたときに、とくちゃんのところに相談が来て入所先を見つけることができた。
Aさんの年齢が若いことから、入所を受け入れてもらえる施設がなかったようで、とくちゃんの所属する法人に相談があった。
そこで一旦とくちゃんの働く介護老人保健施設に入所する流れになり、病院の相談員とも連携し、「サービス付き高齢者向け住宅」につなげられたのだ。

「このような経緯があった方のご家族から、後日電話がかかってきたときは、この仕事をしていてよかったなと思いましたね」と、とくちゃんは話した。

そのときのとくちゃんの表情や声のトーンが忘れられない。
利用者さんを無事に送り届けられた安心と、ご家族からかけられた優しい言葉を思い出しているようだった。
とくちゃんはこの経験から、高齢者以外の支援の重要性に気づいたようだ。

相談員として見た地域のリアルと支援の輪の重要性

とくちゃんは2023年から現在に至るまで、社会福祉協議会の総務課で事務職として働いている。
共同募金委員会や老人クラブ連合会の事務局、生活福祉資金貸付などの相談を担当している。
具体的には、地域で困っている高齢者や障害者、地域住民を支援している団体へ、共同募金委員会で集めたお金の助成をおこなっている。

その他学費の抽出が難しい世帯への貸付や、緊急かつ一時的に世帯の生計維持が困難となった場合の貸付をするのがおもな仕事だ。
今の職に就いたのは、相談員時代に見た地域のリアルが大きな理由になっているそう。

「相談員をしていると外に出る機会が多かったので、ゴミ屋敷やライフラインが止まった家で普通に生活している人を見てきました。
真冬にもかかわらず、ポリタンク片手にガソリンスタンドまで歩いているおばあちゃんは、地域の人から『あの臭いおばあちゃん、なんでポリタンク持って歩いてんだ』って言われたりしていて。そのような現状を見て、介護施設でケアできない、地域で困っている人に手を差し伸べたいと思い、社会福祉協議会に入社しました。」

僕は現場でしか働いたことがない。
介護施設に来たときの利用者さんしか見たことがなかった。
同じ職場の相談員からこのような話を何となく知ってはいたが、そのほかにもいろいろな事例をとくちゃんから聞いて驚いた。
介護施設に来る前まで支援の輪から外れてしまっている方が多いのだと。
僕は想像を絶したが、とくちゃんはこのような方々をサポートしてきて、ある前向きなことに気づいたという。

福祉職だけでなく地域や職場の人々も気にかけてくれている

とくちゃんが介護の仕事をしてきて気づいたことは「地域支援の力」。

「利用者さんの周りには、いくつものネットワークがあり、気にかけてる人がけっこう多くて。
今の仕事をしていると『僕、孤独なんです』と生活が困窮している方から言われるんですけど、実は大家さんが気にかけてくれてたとか、仕事先の誰々さんが裏で動いてくれていたとか、その人に対していろんな人たちが動いてるんですよね。
施設に入所するには、どれだけの福祉関係者や家族が動いてるかっていうことに気づきました。」

この話を聞いて僕は思った。
たしかにそうだと。
たとえば施設に入所するまで多くの方が関わる。
まずは要介護認定を受けなくてはいけないため、市区町村の職員やケアマネジャー、かかりつけ医が、聞き取り調査や主治医意見書をもとに要介護の審査・判定をする。
施設に入所を決めるまでもご家族は見学をしたり相談員と話をしなくてはいけない。

利用者さんの意思はもちろん大切だが、それと同じくらいご家族や行政にも強い想いがあり、施設入所を決めている。
介護施設に利用者さんが来るまでには多くの方が選択をしているのだ。
そう思った僕は長年悶々としていたことを、とくちゃんに尋ねることにした。

とくちゃんが「ここにいたくない」と言われたときはどう向き合うのか

とくちゃんが「こういう所は、格子なき牢獄って言われているの」と、利用者さんに言われたら何と答えるのか聞いてみたところ、施設だけでなく、行政や地域とかかわってきた方だからこその視点があった。

「個人的に思ってるのは、その人がそのまま外に出たときのイメージをして話をします。
たとえば『ここは牢獄だから』と言った人が外に出たイメージを頭のなかで考えながら、『だけどここに来る前ってたしか〇〇が嫌で施設に来たんだよね』など、エピソードを思い出したりして話す意識はしてた気がしますね。」

利用者さんが、「なぜここに来たのか」の背景を理解しているからこそ、伝えられることだ。
また、ときには利用者さんと言い合いをすることもあったという。

「心と心でぶつかり合うことも大切だと上司から教わっていたので、あまりよくないかもしれないですが、喧嘩をしてもいいと思っている部分もありました。
ある利用者さんと「この施設に入るために家族さんがいろいろ考えてくれてるみたいだよ」と話をしたら、「知らねえよ、そんなこと、息子が勝手にしてることだろ」みたいなことを言われて。
思わずこちらも感情を込めて、家族がどれほど悩み、考え抜いてきたかを真正面から伝え、言葉がぶつかり合うようなやり取りになったこともありました。

僕は驚いて笑ってしまった。
介護をするうえで利用者さんの考えが理解できないこともあるが、それを直接言って口論することはなかった。
それはおそらく、僕は利用者さんの視点のみで考えていたからだ。
とくちゃんは利用者さんの家族や行政など、あらゆる立場の人の意見を聞いているからこそ、「ここにいたほうがいい」と強く言えるのだと思う。
これがよいとか悪いではなく、職種による経験の違いを実感した。

「話を聴くこと」僕が思いついたのはそれだけだった

この話を聞き少し時間が経ったあと「じゃあ僕はどうしたいのか」を考えたが、明確な答えは出せなかった。
仮にご家族や行政の思いを知っても性格上、利用者さんに強く言うことはできない。
また、強めに言っても相手が本当に納得していなければ、その場は収まっても「ここにいたくない」という思いが消えないはず。

利用者さんが介護施設に好んで来ている可能性も低いように感じる。
利用者さんがご家族を安心させるために来ている人もいれば、病気や怪我の影響で1人で住むのが困難で、やむをえず入所されている方もいる。

それでも「ここにいたくない」と言われることはあるだろう。
そのときに僕が唯一できることは、本人が納得するまで話を聴くことくらいだ。
いかにも教科書的な答えになってしまったが、それしか思い浮かばなかった。
「今すぐここから出ることはできないが、あなたの気持ちは理解している」という思いが伝わるように話を聴く。

「そっか。どうしてそう思うの?」「何かあったの?」とあの手この手を使って話を聴き続ける。
仕事が忙しくて自分に余裕がないときには、そのような対応ができないこともあるだろう。
それでも反省してまた話を聴くという姿勢を取り戻す。
利用者さんの家族や行政とかかわっている人からすると、「そんなこと言っても…」と思われるかもしれないが、それが今の僕から見える景色だ。

僕の新しい課題は施設だけでなく地域全体で「選べる老い方」を実現している人や場と出会うこと

とくちゃんに取材をして大きな気づきをもらった。
それは、介護施設のみを見ていてはわからないことがあるということだ。
今までの僕は、介護施設のみで利用者さんの支援をしていくことが正しいと思い込んでいた。

もちろんそれが必要な人もいる。
利用者さんにとって自由度の高い介護施設も徐々に増えてきており、それがもっと広がることも望んでいる。

しかし、介護施設に入所するだけでない選択肢も増えるべきだ。
地域全体で支援の輪が広がれば、施設以外の場所で利用者さんが主体となるケアができる。
本人が納得のいく決断ができれば、介護施設を「格子なき牢獄」と呼ばれることがなくなるかもしれない。
それには、「現場が変わること」「地域とつながりを作り続けること」「本人が納得して選べること」。
この3つが1つの線でつながっていることが重要だと感じる。

しかし現実は厳しい。
病院や介護施設、訪問介護事業所では深刻な人手不足が深刻化しており、目の前のルーティンワークを提供するので手一杯。
利用者さんの好きな物を食べてもらったり、行きたい所に連れて行ったりなどをする時間を確保するのが難しい。

利用者さん個々に合わせたサービスを始めるにしても、そのような意識が現場に広がっていないケースも少なくない。
現場の意識改革をしなくてはいけないという精神的な労力もかかる。

また地域包括ケアはその地域の自主性や主体性を重視していくサービス。
有志により、ボランティア活動や郵便局、コンビニを活用した見守りネットワークをおこなっていたりする。
そのため、地域の財源やマンパワーに依存し、都市部と地方では成果に差が起きやすい。

しかしどこかで変わらなければいけない。
KAIGO LEADERS SCHOOLの講座を受け、僕のなかで新しく取り組みたいことが見えてきた。
それは、利用者さんの自立や生きがいを提供している人や場と出会い、その人たちの想いを聴くことだ。
それを発信できれば、「自分たちにもできるかも」「参考にしたい」と思ってもらえる事業所が少しでも増えていくのではないか。

また、両親の介護をはじめようとしている方にも、施設選びや地域資源の選択肢を提供できるはずだ。
そうすれば、高齢者が自宅ではない場所でも「ここにいたい」と思える瞬間が増えるかもしれない。

だから今後は「ただお世話をする介護」からの脱却している施設や場をたずね、そこで活動している人の話を聞きたい。
それが、僕ができる介護の魅力の伝え方だ。

インタビュー・執筆:山田 亮太

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